CT灌流画像の原理を概説する(ただし,以下の説明はCTPに固有のものではなく,MRPを含む非拡散性トレーサを用いる灌流画像法に共通な考え方である).現在,臨床に供されているアルゴリズムはDeconvolution法,およびその派生法が大部分である.
脳組織中の造影剤濃度Ct(t)を,入力動脈血濃度Ca(t)と伝達関数R(t)のConvolution(重畳積分)で表わせると考える.伝達関数R(t)は,時間tにおける組織内の造影剤残存率(0〜1)と考えることもできるので,一般的に残余関数(residue function)と言われる.
Ct(t) = Ca(t)*R(t) = ∫Ca(t-s)R(s)ds
このとき,Deconvolution操作によりCt(t)とCa(t)からR(t)を求めることができれば,各灌流パラメータは以下の方法で求めることができる(下図).
平均組織通過時間(mean transit time) MTT = ∫tR(t)dt /∫R(t)dt [分母=1]
脳血流量(crebral blood volume) CBV = ∫R(t)dt
脳血流量(crebral blood flow) CBF = R(0)
Deconvolution法は,造影剤注入速度が3〜5ml/sec程度でも原理的に充分な定量性を確保できる利点があるが,計算量は他の方法に比較して多く,またDeconvolution自体が不安定な演算であることから,アルゴリズムに工夫が必要である.
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Deconvolution法と時間濃度曲線 |
精度は劣るが,計算量が大きく煩雑なDeconvolution法によらず,動脈あるいは組織の時間濃度曲線から簡便に,直接各パラメータを求める方法もある.
MTT = ∫tCt(t) / ∫Ct(t)dt [First Moment法]
CBV = ∫Ct(t) / ∫Ca(t)dt
CBF = Ct(t)の最大傾斜 / (Ca(t)の最大値 - Cv(t)) [Maximum Slope法]
Maximum Slope法は最も簡便にCBFを得られるが,Cv(t)→0であることが前提となり,これを満たすためには造影剤の注入速度が充分大きいこと,実際には10ml/秒以上が必要とされ,臨床的には使いにくい.
上記いずれの場合も,3つのパラメータの間には下記の関係 (Central volume princlpe) があるので,いずれか2つを何らかの方法で求めれば,他の1つは間接的に算出することもできる.
CBV = CBF × MTT
(百島祐貴)
Ostergaard L, et al. High resolution measurement of cerebral blood flow using intravascular tracer bolus passages. Part I: Mathematical approach and statistical analysis. Magn Reson Med 1996;36:715-25
Ostergaard L, et al. High resolution measurement of cerebral blood flow using intravascular tracer bolus passages. Part II: Experimental comparison and preliminary results. Magn Reson Med 1996;36:726-36
Nabavi DG, et al. CT assessment of cerebral perfusion: experimental validation and initial clinical experience. Radiology 1999;213:141-9
Konig M. Brain perfusion CT in acute stroke: current status. Eur J Radiol 2003;45(Suppl 1):S11-22
Wintermark M, et al. Quantitative assessment of regional cerebral blood flows by perfusion CT studies at low injection rates: a critical review of the underlying theoretical models. Eur Radiol 2001;11:1220-30
CTP と X線被曝 |
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CT灌流画像とXe-CTは撮影条件によっては思わぬ高被曝となる.不適切な条件での安易な反復やIVRとの併用は,最悪の場合放射線障害を起こす危険すらある.検査被曝に対する正確な知識と十分な配慮が必要である. CT被曝の指標としては,局所被曝の指標としてCTDIw (weighted CT dose index)や等価線量(equivalent dose)などが,検査全体の被曝の指標として,DLP (dose product length)や実効線量(effective dose)などがある.CT灌流画像やXe-CTは同じ部位を何回も撮影するため,これらの指標では検査被曝を低く見積もる危険があり,CTDIwにスキャン回数を乗じた値であるCTDIvol(volume CT dose index)を局所被曝の指標とするのが望ましい. CTの被曝量は管電圧の2乗に比例し,管電流やスキャン時間に比例する.Xe-CTでは一般に通常の電圧(120kV)が用いられるが,CT灌流画像では低電圧撮影(80kV)が一般的となっている.管電流とスキャン時間の積(mAs)はできるだけ小さく設定すべきであるが,画質も劣化するため,装置ごとに適切な条件を見極める必要がある.スキャン回数も必要最小限とすべきである. 現時点での低線量条件における局所被曝はCT灌流画像、Xe-CTとも200-300mGy前後であり、頭部単純CTの数倍となる.CT灌流画像では100mGy以下の超低線量検査が可能となりつつある.
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(佐々木真理) |
CTPの定量性に関する問題点 |
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CT灌流画像は,使用するTracer(ヨード造影剤)濃度と測定されるCT値の直線性が良好であり,高い定量性を特徴とする.しかし,実際には撮像条件,解析条件,解析手法などにより定量値が変動するという問題点がある. |
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1. 前処理CTPの元画像はノイズが多く,前処理としてノイズ除去が必要である.特に低線量条件では顕著である.この際に用いるノイズ除去フィルターにより画像の視覚的特徴や定量値が変動する(図1).
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2. 解析解像度解析解像度を低く設定すると計算時間は短縮されるというメリットがある.同時に,単純平滑化効果も有するという点に注意が必要で,前述のノイズ除去フィルターと同様に画像や定量値が変動する(図1). |
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図1.ノイズ除去フィルターと解像度による差異 | |||
3. 動脈入力関数(AIF)AIFによる定量値の変化は良く知られている.その原因は,ROIの部分容積効果とAIFと組織間の造影剤到達時間のDelay及びDispersion効果である.一般には狭窄病変などがない,太い動脈をAIFに設定することが推奨される(図2). |
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図2.動脈入力関数(AIF)による差異 | |||
4. 静脈出力関数(VOF)VOFを使用することで,AIFのROIに生じる部分容積効果を補正することができる.通常は部分容積効果の少ない静脈としてSSSを用いるが,VOFのカーブ下面積が変化するとCBVやCBFが変動する.
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5. 解析エンジン現在はDeconvolution法が主流で,造影剤注入速度を高くする必要があるMaximum Slope法は使われなくなってきている.Deconvolutionにも多くの手法があり,それぞれ特徴が異なり,定量値も異なる(図3). |
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図3..解析エンジンによる差異 | |||
6. CBF,CBV,MTTそれぞれの算出法Central volume principleではCBF=CBV/MTTという関係がある.Deconvolution法ではそれぞれを算出することができるが,通常は3つのパラメータのうち2つをDeconvolutionにより算出し,残りの1つを上記関係式から計算することが多い.
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7. 血管除去CTPはヨード造影剤をTracerとして用いるが,SPECTやPET,Xe-CTとは異なりTracerは血管外に出ない.よって解析画像も血管が強調されるため,定量性の向上に血管除去法(VPE法)が有用である.ただし,血管除去の方法や閾値により定量値は変動する(図4). |
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図4.血管除去処理による差異 | |||
8. 後処理前処理と同様に,後処理として各種フィルターを適用することがある. |
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(工藤與亮) |